2008年3月12日 (水)

受賞者インタビュー

Interview01

《プロフィール》

1965年静岡県生まれ。関西大学卒業後、大手スーパーに入社。

退社後、韓国延世語学院韓国語科入学。
帰国後、接客業と韓国語の翻訳業に従事。

現在は主婦。

Interview02


Interview_icon ご出身はどちらで?

 「生まれは静岡県浜松市なんですが、その後は横浜市や京都市など全国各地を転々としました。29歳で結婚してからは大阪市に移りまして、さらに夫の転勤でまたいろいろな土地に…」


Interview_icon_2 まさに『埋もれる』の主人公、由希のようですね?

 「そうですね」


Interview_icon_3 そんな奈良さんが、小説を書き始めたきっかけを教えていただけますか?

 「大学時代に文芸部におりましたので、そのころからということになりますが、卒業してからはほとんど書いていなかったんです。本格的にはじめたのは結婚後、大阪文学学校を経てからです、その後、同人誌の『白鴉』に入会しました」


Interview_icon_4 どうして、再び小説を書き始めたんでしょう?

 「韓国に留学したとき、パンソリという伝統芸能を知りまして、それをモチーフにした小説を書きたいと思ったからです。パンソリとは、日本でいえば謡曲とか、琵琶法師の平家物語に近い語りの芸能で、太鼓の調子に合わせて歌や身振りをまじえて昔話を語っていくんです。いろいろ調べていくうちに、韓国が日本に統治されていた時代に生きたパンソリの芸人の物語が浮かんできて、それをどうしても書きたくなったんです。これは、1998年に新幹社から『風に抱かれた鳥』という名の作品として自費出版しています」


Interview_icon_5 白鴉は、芥川賞作家の玄月さんが大阪文学学校で知り合った仲間と設立した同人誌として有名ですね。どんな活動をしていたんですか?

 「それぞれの同人が月に1回、喫茶店に自分の作品を持ち寄って、互いに批評をし合う合評会が中心です。そこで認められれば、同人誌に掲載されるわけですが、かなり厳しい批評が飛ぶので、簡単に掲載されることはありません。実際、私も最初の3年間は、一度も載ることはありませんでした。学生時代に書いたものを焼き直ししたものだったので、今思えばそれも当然なんですが」


Interview_icon_6 合評会では、どんな風に批評されるんですか?

 「例えば『登場人物が生き生きと描けていない』とか、『セリフがちゃんとかみ合っていない』とか、『比喩として言葉の選び方がおかしい』とか。ほめられることは滅多にないですね。ただ、そういう指摘をその場に参加した10数人の同人から一気に受けるので、とても勉強になりました」


Interview_icon_6 奈良さんにとって、小説を書くというのは、どういう行為だったんでしょう?

 「最初は単なる趣味としてはじめたんですが、先ほど述べた『風に抱かれた鳥』という作品を書いたころからは、趣味以上にのめり込んでいきました。私が小説を書きたいと思うときは、実在の人物でも、フィクションの中の登場人物でも、ある魅力的な人物に触れたときに、その人物を、文章を使ってこの世に生み出したいという動機がまずあるんです。だから、社会に対して思想やメッセージを発したいといった気持ちはまったくなくて、自分がつくり出した登場人物を私と一体化させたいという気持ちだけなんです」


Interview03


Interview_icon_6 ところで、『埋もれる』の主人公、由希は、韓国に留学した日本人女性ですが、奈良さんにも留学経験がありますね。そのきっかけを教えてください。

 「それについては、宝島社さんにお礼を言わなくちゃいけないなと思っているんです。というのも、私が韓国に興味を持ったのは、84年に宝島社が発行した『朝鮮・韓国を知る本―隣の国が見えてくる!』というムック本を読んだからなんです。とにかくおもしろくて、バイブルのように何度も何度も読みました。

 その後、『劇画韓国名作短篇小説選』(南雲堂)という一冊のコミック本に出会い、その作者パン・ハッキ先生に英語のファンレターを出したんです。すると、たまたまそのころ、その本を翻訳された方のもとに先生がいらしているということで、京都に会いに行くことができたんです。そのとき、パン先生の魅力的な人柄に触れたことで韓国語を勉強しようと思いました。

 テキストは、宝島社の『10日間でつかむ!伝わるハングル会話』。それから、パン・ハッキ先生の作品『李朝水滸伝―革命児・林巨正の生涯』も宝島社さんは出版されていて、これも何度も読みました。 この作品は、李朝時代の旅芸人にスポットを当てた作品で、つまりそれがパンソリなどの韓国の芸能に興味をもつきっかけにもなっているんですが、その後、それが『風に抱かれた鳥』という作品を書くことになり、さらにその延長線上で日本ラブストーリー大賞の受賞につながったことを思うと、宝島社さんとのつながりを感じずにはいられません。もっとも、私が勝手にそう思っているだけですけど」


Interview_icon_6 いや、私たちも不思議な縁だなと思っていますよ。これからもよろしくお願いします。

 「こちらこそ」


Interview04


Interview_icon_6 韓国での留学生活について、聞かせてください。

 「韓国に渡ってからは、学校に通うだけでなく、韓国人のみで構成されているパンソリのサークルに入会したりして、韓国人の方と積極的に交流を持とうとしました。それで、パン・ハッキ先生とお会いしたときに感じた人間的な魅力が、私がお会いした韓国人の方々すべてに共通するものなんだということを発見したんです。

 例えば、ある韓国人と電話をしていて、言葉のすれ違いから怒らせてしまい、ガシャンと切られてしまったんです。ただ、次の日にその人と会う約束があったものですから、気が重いながらも約束の場所に行ったんですね。すると、昨日のことなどサッパリ忘れたようなさわやかな笑顔で、私のことを迎えてくれたんですね。

 日本人と比べると、言葉の裏をかえすようなところがなくて、いい意味で直情派の人が多いんですね。本音で話をすることができるんです」


Interview_icon_6 結局、韓国にはどれくらいの期間、留学していたんですか?

 「9カ月です。お金がなくなって、帰ってきました(笑)。今なら『埋もれる』の主人公のように現地でアルバイトをして、滞在期間を延ばすことができたと思うんですが、当時は日本人が働くのはむずかしい状況がありまして」


Interview_icon_6 こうして聞いていると、その韓国での体験が『埋もれる』にも直接生かされているようですね。

 「はい。ただ、私が留学したのは15年以上前なので、その後に旅行した印象や調べた事実などを補足して、現代の話としておかしくないように工夫しています」


Interview05


Interview_icon_6 『埋もれる』の執筆には、どれくらいの時間をかけましたか?

 「だいたい1カ月半で第1稿ができまして、あとの1カ月半を推敲にあてた感じでしょうか。

 これは他の作品ではなかったことなんですが、書いていてとても楽しく、気づけば15時間も没頭していたこともあって驚きました」


Interview_icon_6 執筆後は、同人の方に批評をあおぎましたか?

 「同人誌に出しているのは短編がほとんどなので、長編の『埋もれる』をお見せするのははばかられまして、その中の一人の方にしか見せられませんでした。でも、とても有効なアドバイスをいただけたと思っています。

 例えば、『韓国で暮らしている日本人女性の由希の孤独が伝わってこない』と言われて、主人公の由希の少女時代のエピソードなどを足したんですが、結果的にそれが作品に深みを増したかもしれません。もちろん、それがこのような賞をいただける作品だとは思いませんでしたけど。

 どの作品のときもそうなんですが、書き上がって1週間くらいは『これはすごい作品だ』という自信をもっているものなんですけど、その後、少しずつアラが見えてきたりして、『やっぱりダメだ』と落ち込むパターンが多いです」


Interview_icon_6 ちなみに、由希が恋するテソクという韓国人男性には、モデルがいるんですか?

 「います。実は、この作品を書く以前にも、同じ人をモデルにして作品を書いたんです。ただ、そのときは出家を夢見る思想的に偏った男性という設定で書きましたので、もう一度、その魅力をストレートに書きたいと思って書いたのが『埋もれる』でした」


Interview_icon_6 よほど魅力的な男性だったんですね。

 「石田衣良先生が小説の中で『女はどういうわけか、自分にやさしくない男に惹かれる』と書かれていて、私は強くうなずいてしまったほどで。とにかく、何を考えているのかわからない、謎めいた男性が私の好みのようです。だから、柴門ふみ先生に『テソクはとても魅力的』と評価していただいたことはとても光栄なことで、うれしかったですね。ただ、『始まって以来の、本格的濃厚ベッドシーン』のほうはまったくの想像です。いちおう、一家の主婦をしておりますので(笑)」


Interview_icon_6 しかし、その「ベッドシーン」は審査員の多くが高く評価しました。

 「小説の中のセックスシーンというのは、私はファンタジーだと思って書いているんです。実際、セックスというのはたいていの場合、秘められた場所でするものですから、想像力を働かせれば、どんな風にも書けると思うんです。つまり、官能小説のように読者の人に淫らな気持ちを抱かせることを目的にセックスシーンを書くだけではなく、その行為に浸っている人物の内面を深く描いたり、そこに置かれているふたりの状況を浮き彫りにする要素でもあると思うんです」


Interview06


Interview_icon_6 受賞の知らせは、どんな状況でお聞きになりましたか?

 「アルバイトから帰ってきてご飯を食べていたとき、夫がふと思い出したように『そういえば、ナントカ協会ってところから電話があったよ』と言ったんです。私は大阪女性文芸協会の理事をやっているものですから、てっきりその連絡だと思ったんですが、『ラブストーリーとか何とか言ってたな』と聞いた瞬間、ご飯がノドを通らなくなり、お皿にラップをして冷蔵庫にしまってからは何も手につかなくなりました(笑)。

 今は少し冷静になっていますが、賞をいただいたといううれしさよりも、これから作品を書き続けていかなくてはならないというプレッシャーも大きいです」


Interview_icon_6 次回作は、どのようなものになるんでしょう。

 「次回作は大阪の中小企業を舞台にした少しコミカルな物語を考えています。主な登場人物が4人いまして、それぞれがすれ違いながら恋愛をしていって、思いがかみ合わないというストーリーです」


Interview_icon_6 最後に、今後の決意を!

 「私は、それを書いたことで自分の中に気づきが生まれるような作品を書いていきたいと思います。そして、読んだ方にも多少なりともそうした気づきを与えることができるとしたら、これ以上の幸せはありません」


ありがとうございました。ご活躍、お祈りしています。

|